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アジア人材戦略レポート2019年版 その1

【はじめに】

2017 年に引き続き、昨年10 月に「日系企業における人材戦略に関するアンケート」について実施致しました。アンケートの対象は、一昨年同様、[ASEAN 5 カ国+中国、香港、インド、韓国] の9 ヶ国・地域、858 社からご回答を頂いています。

国別の回答企業数や業種については以下の通り。お陰様で、マレーシアは参加国中最も多い117 社の日系企業から回答を頂きました。

この回答結果分析については、主にマレーシアに焦点を当て今後2 回のコラムに分けて解説していきます。従業員数別の回答企業(マレーシアのみ) 分布については以下のチャートの通り、10 名以下の小規模から300名超の大規模製造業まで、満遍なく分布しています。

従業員別回答企業

全回答企業でみると、100 名超が34%となっているのに対し、マレーシアでは46%と、従業員の多い企業の比率が高くなっています。これは設立後20 年、30 年の企業の比率が高いためです。

 

【離職率】

まずは皆様の関心が高い離職率について見ていきましょう。マレーシアの統計で離職率を探しましたが残念ながら見つけることが出来ませんでした。外国人労働者も多く、全産業に亘ってデータを集めるのが難しいからかも知れません。

日本の離職率を参考までに提示します。厚労省による雇用動向調査結果(平成29 年) です。

日本の離職率

これによると、全体で14.9%、宿泊・飲食サービス(30.0%)、生活関連サービス(22.1%) の二つが高く、マレーシアに多い製造業は9.4%となっています。
定義は(一年間の離職者数÷期初の従業員数) です。

今回のアンケート結果-国別では以下の通り。

離職率比較

マレーシアは日本と同じ15%で、全対象国中の中間当たりに位置づけられます。
今回の回答企業中製造業が占める割合は61%でしたので、この15%という離職率は日本より高いと言えます。
これは安定した失業率(2010 年以降は2.7% - 3.5%のレンジ Malaysia Department of Statistics)、転職によるキャリアアップ(および基本給のアップ)が一般的であること、売り手(求職者側) 市場が続いていること、などが要因と言えます。

一方で、従業員数が多くなるにつれて離職率が下がる傾向が見られます。

 

【業績の達成度合い】

今回は全回答企業に、期初にあげた予算(売上げ、利益、収益性など)に対する達成度合いを聞いています。
「大幅に達成している」と「達成している」を「達成企業」としその比率を比較しました。

業績の達成度合い

ASEAN5 カ国のうち日系企業の進出が最も盛んなベトナムを除くと、ほぼ同様の結果。それ以外の国は業績を達成した比率が相対的に高い結果となっています。地域経済や日本との輸出入、進出企業の個別事情といったものが影響していると思われますが、今回のアンケートではそこまでの分析は出来ていません。

業績の達成と、離職率、それを左右するであろう人事制度、福利厚生制度、人材採用との関係性を見ていきたいと思います。

 

【業績達成と離職率】

これは全回答企業の数値です。

業績達成と離職率

如何ですか? 達成している企業の多くは離職率が低い、と予想されたのではないでしょうか?
結果はこの通りで、離職率低くなればなるほど「業績達成した企業数」が増える、といった図式は見られませんでした。

マレーシアでいうと、従業員規模800 名超で「大幅に達成」した企業が2 社ありましたが、いずれも離職率は30%以上と決して良くない。一方400 名超で離職率5%未満と、従業員の定着率が極めて良好な企業で、「大幅に未達」という企業が数社ある。

これはどう見たらいいでしょうか?
企業にとってある一定の新陳代謝、すなわち新しい血の導入は組織の活性化を図る上で重要なファクターです。当地で日頃日系企業幹部の方々と接する機会が多いのですが、二つの大きな悩みがあります。

  1. 従業員の定着が悪く、技能や業務上のノウハウがなかなか伝授出来ない、蓄積されない(高い離職率)

  2. 入社20 年、30 年といった古株が担当業務を抱え込み、かつ上層部に張り付いているため若手が育たない(低い離職率)業績達成を継続的に実現する、従業員が定着し安定した経営基盤を構築する、この2 つの関係性をまとめたものが以下の表です。

業績達成と離職率2

右上: 理想型ですが、世代交代を図っていかないと人間で言う動脈硬化を起こす可能性があります。そのための制度作りと、上級職への役割課題の明確化が必要です。

右下: 組織としては安定していますが、このまま行くと縮小均衡の恐れがあります。多くの場合、組織を引っ張っていく、変革を起こすことの出来るリーダー層がいないことが要因となっているようです。日本から出向社員を送ることでは解決は出来ません(コスト増に加え4-5 年のローテーション)。やはり外から思い切ってコアとなる人材を採用することが変革のきっかけとなるでしょう。

左下: 従業員は頻繁に入れ替わるは、業績は低迷するはで、八方塞がりの状態といえます。まずはSWAT 分析* などで現状を分析のうえ事業戦略をしっかり立てる、組織については、部門、ポジション別に離職率の変化を分析、どこが高い離職率を構成しているのか、見極めることが重要です。
従業員が多い(業界にもよりますが、100 名以上) の場合、専門の人事コンサルタントによるコンサルティングが効果的だと思います(一時的なコストとなりますが、長い目で見れば十分元は取れる)
*SWAT=自社を取り巻く外部環境と内部環境を、Strength (強み)、Weakness (弱み)、Opportunities (機会)、Threats(脅威) のマトリクスから分析、経営課題や事業機会を検討する際の参照とする分析手法

左上: これはやり方次第で如何ようにでも変化する状態。業績達成や離職率が高いのは特定の部門に偏っていないか? 通常全社的に同じ傾向にあることはありませんので、原因の特定はそう難しくはない。そこがわかれば対処療法を取ればよし。その上でモメンタムを維持するための組織改革に手をつける。
特定の部門や、スター級の人材に業績達成を依存している場合、底が抜けた時のPlan B を立てておくこと。さもないと急転直下業績悪化、ということもあり得ますので。

次回は給与テーブルの整備状況や教育研修制度の充実ぶりと、業績との関係性を見ていきます。